"The world has heard much of the triumph of DDT. It has heard little of the cost." — Rachel Carson, 1962
DDTは昆虫には即死性神経毒として、哺乳類・鳥類には遅延性内分泌かく乱物質として、全く異なるメカニズムで作用する。
標的: 昆虫神経軸索の電位依存性ナトリウムチャネル(VGSC)
昆虫のVGSCはDDTに哺乳類の10〜100倍感受性が高い。この選択毒性がDDTを「理想の殺虫剤」と見せた。
標的: エストロゲン受容体(ERα/ERβ)
標的: 鳥類の卵殻腺(子宮部)の Ca²⁺-ATPase
ハクトウワシ(Haliaeetus leucocephalus)は1963年に448羽まで激減。DDT禁止後の回復はこの機序の証明となった。
DDTの脂溶性(log Kow 6.9)と難分解性がもたらす食物連鎖への蓄積
DDTは「使えば人が死ぬ(生態系崩壊で)」「使わなければ人が死ぬ(マラリアで)」という、倫理的に最も難しい問題を提示する。
「DDT問題は、科学者・政策立案者・貧困国が同じテーブルについてはじめて解決できる。単純な禁止か容認かという二分法では解けない。」— UNEP, 2008
DDTのLD50は87–113 mg/kg(ラット経口)と、多くの農薬より高い(=毒性は低い)。DDTの「毒性」は急性毒性ではなく、慢性・生態系・生物濃縮毒性にある。
毒物・疫病5件を共通の5軸で比較。DDTをハイライト表示。
| DDT C₁₄H₉Cl₅ |
ヒ素 As₂O₃ |
ペスト Y. pestis |
天然痘 Variola |
マラリア P. falciparum |
|
|---|---|---|---|---|---|
| カテゴリ | 農薬/POPs | 毒物 | 疫病 | 疫病 | 寄生虫病 |
| 推定影響者 | 全人類(POPs汚染) | 数百万人 | 7500万〜2億人 | 3〜5億人(20C) | 年間2億人感染 |
| 致死性 | LD50 87–113 mg/kg急性毒性は低い | LD50 14.6 mg/kg | 致死率 30–90% | 致死率 30% | 致死率 0.1–20%(年60万人死亡) |
| 機序 | Na⁺チャネル開放+ 内分泌かく乱+ 生物濃縮 |
PDH阻害+ ヒ酸分解+ROS |
免疫回避 内毒素ショック |
免疫破壊 全身性炎症 |
赤血球破壊 脳マラリア |
| 止めた人 | Rachel Carson 1962 / EPA 1972 |
マーシュ 1836 |
北里/イェルサン 1894 |
ジェンナー 1796 |
進行中 |
| 現代の転用 | IRS(アフリカ) マラリア対策継続 |
白血病治療薬 | 抗生物質 | 根絶(1980) | ワクチン開発中 |
| 歴史的インパクト | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ |
| 機序の複雑さ | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ |
| 科学への貢献 | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ |
| 物語性 | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ |
| 現代の意外性 | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ |
| 合計 | 22/25 | 24/25 | 21/25 | 22/25 | 21/25 |