"A night with Venus, a lifetime with Mercury" — 大梅毒(Great Pox)時代の格言
T. pallidum は4段階の戦略で宿主を攻略する。
T. pallidum の外膜はリポタンパク質が少なく、免疫認識を回避しやすい「ステルス設計」を持つ。
T. pallidum は in vitro での培養が不可能。実験には感染ウサギ睾丸を使う——これが研究を100年以上遅らせた。
T. pallidum は免疫回避の切り札としてTprK(Treponemal repeat protein K)を持つ。
加えて:
第3期の組織破壊の主役は菌そのものではなく宿主の免疫応答。
T. pallidum は妊娠16週以降に胎盤を通過して胎児に感染する。
現代でも先天梅毒は世界で年間約100万件以上発生。2010年代から再増加傾向(WHO 2019)。
この研究は「科学の名のもとに何でも許される」という時代の終焉を告げた。 クリントン大統領は1997年に正式謝罪。研究が生んだ不信感は現在も米国黒人コミュニティにおける医療不信・ワクチン忌避に影を落としているとされる。 インフォームドコンセント・IRB・ベルモント原則(尊重・善行・公正)はこの悲劇から生まれた。
日本人細菌学者・秦佐八郎(1873–1938)はエールリッヒ研究所に留学し、 化合物606の動物実験(ウサギ・マウスへの梅毒感染モデル)を担当した。 彼の精密な実験プロトコルなくしてサルバルサンの発見はなかったとされる。 日本に帰国後も感染症研究を牽引し、東北大学医学部の基礎を築いた。
1940年代のペニシリン導入後に激減したが、2000年代以降に再増加。近年の先進国での急増が問題に。
毒物・疫病を共通5軸で比較。梅毒をハイライト表示。
| 梅毒 T. pallidum |
ヒ素 As₂O₃ |
ペスト Y. pestis |
天然痘 Variola |
マラリア Plasmodium |
|
|---|---|---|---|---|---|
| カテゴリ | 疫病 | 毒物 | 疫病 | 疫病 | 疫病 |
| 推定犠牲者 | 数千万人(歴史累計) | 数百万人 | 7500万〜2億人 | 3〜5億人(20C) | 5億人超/年(継続中) |
| 致死性 | 8〜58%(未治療) | LD50 14.6 mg/kg | 30〜90%(腺ペスト) | 30% | 0.2〜1%(全体) |
| 機序 | OMP接着+ TprK変異+ 免疫病理 |
PDH阻害+ ヒ酸分解+ROS |
免疫回避 内毒素ショック |
免疫破壊 全身性炎症 |
赤血球内寄生 免疫回避 |
| 止めた人 | エールリッヒ1910(サルバルサン) マーホニー1943(ペニシリン) |
マーシュ1836 | 北里/イェルサン1894 | ジェンナー1796 | 屠呦呦2015 |
| 科学的遺産 | 化学療法・魔法の弾丸・研究倫理(IRB) | 法医毒物学 | 細菌学・疫学 | 免疫学・根絶医学 | 天然物化学 |
| 歴史的インパクト | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ |
| 機序の複雑さ | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ |
| 科学への貢献 | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ |
| 物語性 | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ |
| 現代の意外性 | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ |
| 合計 | 21/25 | 24/25 | 21/25 | 23/25 | 24/25 |